
ギルガメッシュ叙事詩は、紀元前3000後半のものと思われますが、現在知られているギルガメッシュ叙事詩は、紀元前千三百年頃にバビロニア語で編集されたものを指しています。
シュメール文化がバビロン文化の影響を受けたり、いろいろな手が加えられることで、さまざまな話が追加されていったことも考えられ、異本と言われるものも存在しています。美術品や円筒印象などにもそのモチーフが使われました。
一般に親しまれているギルガメッシュ叙事詩というものは、新アッシリア時代のアッシュルバニパルの図書館から12枚の粘土板が出土され他ものです。
正確に『ギルガメッシュ叙事詩』というタイトルだったかどうかは不明ですが、現代人の私たちがわかりやすくそのようなタイトルになったようです。
シュメール人といえば、高度な文明を持っていたと言われています。しかしなぜ粘土板なんだろう?と思ったりもしますが、紙の文書であれば燃えたら消滅してしまいます。
粘土版や石板の方が結果としては古いものが現存していることを考えると、聖書のように世界中で守られ、世界中の言語に訳される書物とは違い、そのようにして発見された粘土板にはロマンを感じます。
アッシリア・バビロニア語
紀元前2600年ごろにはシュメール文字が使われていましたが、アッカド王朝からバビロニア語へと変化していったようです。
シュメール人
今から五千年ほど前に、チグリス・ユーフラテス川両大河のあたりに住んでいた古代民族で、絵文字から発展した楔形文字を使い、高度な文明を有しており、多くの文学作品を残していたと言われている謎の民族です。
謎でありながら、存在したと言われている証拠はアッカド人の記録が挙げられます。
近隣にシュメール人と呼ばれる人たちが住んでいて、ウルやウルクという街がある。
楔形文字という文字は、我々(アッカド人)とは違う文字、違う言語を使っている。
さらに、アッカド人の王サルゴン一世が(BC2334頃)ウルクを倒したと言われています。
楔形文字
植物の先を押し付けて記録したものと思われます。文字を読めた人はごく限られた人である可能性が高く、文字を読めるようにする学校が作られていました。
ウル(Ur)
ウルとはメソポタミアにあったシュメール人の都市国家のことです。
シュメール人が中心となった都市国家がどのくらい存在したのかは不明です。
アッシュルバニパル
紀元前668年から627年までのアッシリア王国時代のアッシリア王
非常に教養豊かな人で、文書の記録や収集を重要なものとして図書館を作り文書を保管していました。
軍事力、政治力に長けており、アッシリア史上最大の征服者で領地をペルシャ、バビロン、シリア、エジプトまで拡げていました。
アッシュルバニパルの図書館
1850年代に古代のニネベの研究発掘中に発見された図書館。古代世界の中で最も大きな図書館と言われています。
西暦前612年 アッシリア帝国の滅亡後廃墟になっていました。図書館は帝国最後の王 センナケリブ王の王宮の中にありました。
アッシリア
現在イラクの北部 ニネベあたり。
主人公ギルガメッシュの名前
当時の文字は表意文字で記されているために、正しい発音はわかりません。
創世記10章に登場するニムロデではないか?あるいは同系統のものではないか?とも言われていたこともあります。ニムロデの支配がウルクやアッカドにも及んでいたことや、描写がギルガメッシュとそっくりです。
現在の考古学上の発見により実在が確認された王名表の中の人物がギルガメッシュ叙事詩に登場するキシュの王で紀元前2800年ごろの王であることがわかっています。
そのことから、名を連ねているギルガメッシュも実在したであろうと言われています。
https://shachi.blog/legend/babel/登場人物
特徴 | |
ギルガメッシュ | 父親・ウルクの神域クルラブの神官 ウルクの5番目の王 母親は女神ニンスン 3分の2が神 3分の1が人間 野牛のように粗暴で横暴 容姿端麗 |
イシュタル (イルニニ) | 美と豊穣の女神 官能の神 残酷な一面 エアンナ(天の住まい)に住んでいる 妹のエレシュキガルは人間が死後に行くべき冥界の地獄の支配者 |
シャマシュ | メソポタミアの太陽神 |
アダド | 神鳴を鳴らした |
アルル | アヌに呼ばれて人間ギルガメッシュを作った ギルガメッシュに似せてエンキドゥを作った |
エンキドゥ | アルルが作った 命じたのはエンキ 全身が毛に覆われて、女性のような髪、草を食べ、獣たちと暮らす野人。 後にギルガメッシュの親友となる |
ニサバ | 書紀 学問の神 女神 |
スムカン | 野生動物の守護者 男神 |
アヌ | イシュタルの父親 洪水の際、地の神々はアヌの元へ |
アントゥム | イシュタルの母 |
ニヌルタ | 豊穣(農業・狩猟)と戦闘の神 ニムロデ? シュルパックの町に住む神々の代表者 |
神聖娼婦 | 宗教上の儀式として性的な行為を行う女 |
エンリル | アン(後のアヌ)と母神キ 洪水を起こした神 エアの僕? |
エア (エンキ、ニニギク、エンキ) | 知恵の神 世界の創造者? 水の神 ウトナピシュテムに情報を伝える エンリルはエアのことを快く思わない 自分はここに住めなくなったので |
フンババ | 杉の森の番人 |
ルガルバンダ | ギルガメッシュの守護神 |
アヌンナキ | 天上、冥界の神々の総称 |
タンムズ | イシュタルの過去の夫 |
シリリ | |
イシュラヌ | |
天の牛 | アヌがイシュタルのために作った巨大な牛。人々に害を及ぼした。 |
イルカルラ | 冥界の女神 |
エタナ | キシュの伝説的な王 |
スムカン | 家畜の神 |
エレシュキガル | |
セーリ | |
ウバラ・トゥトゥ | |
ウトナピ・シュテム | ウバラ・トゥトゥが父 大洪水から助けられた人間 賢者 聖書中のノアにあたる人物 |
シン | 月の神 男神 |
マーシュ | 所在不明の山 双生児という意味 ギルガメッシュが日の沈む方へ進んで見つけた |
サソリ人間 | 恐ろしい姿の半人半獣 男女一対いた 天界と冥界に通じるマーシュという山の門番 |
ウルシャナビ | ウトナピ・シュテムに仕えている船頭 |
女主人 | (シドゥリという名前)酒場の女主人 |
マムメナウム | 運命を割り当てる女神 |
シュルッパク | ユーフラテス河岸の街 神々が住んでいたが洪水で滅んだ |
エンヌギ | 水路監督 |
ニシル | 洪水終了時船が止まった山 現在のイラク共和国北東部クルド地方のスレイマニヤから北西におよそ30kmに位置するピル・オマル・グドルン山、別名ピラ・マグルン山 聖書中のアララト山 |
ツバメ 大鴉 | 洪水後船から放った鳥 |
イギギの神々 | アヌンナキに支配されていた神々 |
蛇 | 長寿?若返り?の植物を奪っていく |
キシュ | 洪水前の最大勢力はキシュの都城 その後、ウルクが優勢 |
ニップル | 地名 |
シュルパック | 地名 |
大洪水以外の聖書の記述と類似
牛の記述

アヌはイシュタルのために巨大な牛を作り値に放ちます。牛は人々に害を及ぼした。その害とは7年間の不作 でした。
似たような記述が創世記41章に見られます。
それはファラオが美しい7頭の雄牛が、みすぼらしい7頭の雄牛に食い尽くされてしまうという夢でしたが、これはその後の7年間の飢饉が起こることの象徴でした。
洪水伝説の記述
洪水伝説の類似は有名ですが、ギルガメッシュ伝説の方の洪水は、神の側が会議を開いて人類を洪水で滅ぼすことに決定されます。
その件について人類に教えて助け出そうとする神がいます。
一方、洪水による人類滅亡を逃れた人類がいることに、憤る神もいます。
助け出そうとする神は、こっそりと壁越しに情報を人間に伝えます。
一方、聖書の記録は、人間が神に従わなかったから人を滅ぼすことにするけれど、神に従う人は助けると言うもので、神は助けたいと思っていることが前提になっていますが、ギルガメッシュ叙事詩の方は神託で人類の滅亡は決まっていたけれど、こっそり人類を助けようとした神がいたと言うことになります
https://shachi.blog/legend/noah/タンムズ
タンムズはイシュタルの元夫です。聖書中のエゼキエル書8章14節にはタンムズという名前が挙げられており、エルサレムで女性たちがこのタンムズのために泣いているという描写があります。
泣いていた女性たちの時代はBC612頃だと考えられますから、同時期にタンムズは生きてはいませんでしたから神格化されたタンムズに対する、宗教儀式として行われていたことが伺えます。
タンムズはウルク王朝の王で死後神格化されたと言われています。
ソロモンの言葉
聖書中のソロモンによる書の考え方も非常に似ています。ソロモンによる、伝道の書という一冊が作られたのはBC1000頃ですから、博識なソロモンはギルガメッシュ叙事詩の内容も知っていたことでしょう。
ギルガメッシュ叙事詩で述べられている『人のなすべきこと』に対するアンサーのようにさえ聞こえます。
ギルガメッシュよあなたはどこまで彷徨い行くのですか?
あなたの求める命は見つかることなどありません。
神々が人間を創られた時、死が振り分けられたのです。
ギルガメッシュよ、あなたはあなたの腹を満たしなさい。
昼も夜もあなたは楽しむが良い。
日ごとに饗宴を開きなさい。
あなたの衣服をきれいにして髪を洗い水を浴びなさい。
あなたの手につかまる子供達を可愛がり、あなたの胸に抱かれた妻を喜ばせなさい。
それが人間のなすべきことだからです。
ソロモンは当時の手に入る全てを手にしていた人ということができます。そのソロモンが言うには、
・地上の生活におけるすべての出来事は周期的に生じている。
・すべての人はやがて死ぬ
・富、若さ、所有物の量、貧富の差などをあげて、全ては虚しいこと。
と述べています。文学作品として、とても感動的なので読んだことのない人は是非読んでみてください。
そして、人の行うすべてのことが虚しいと述べつつも、人生を意義あるものとする判断基準は、神を畏れて神の掟を守ることに尽きる。と結論づけています。