第30年第4の月の5日 私は捕囚の民の1人としてケバル川のほとりにいた。
すると天が開かれ私は神の幻を見始めた。
エゼキエル1章は上記の一文から始まります。続く2節でエホヤキン王が捕囚されて5年目(西暦前613年頃)のことだと書かれています。
ケバル川というのは聖書中には詳しい場所が述べられていませんが、バビロン南東のニップールという都市で見つかった楔形文字の書字版に書かれているナール・カバル(大運河)であろうとされています。
ともかく、このケバル川のほとりで最初の幻を見てから7日間エゼキエルは呆然自失としていたようです。
大予言書
エゼキエル書というのは、聖書の中の大予言書と言われているもののひとつで、その文体や表現、また異なる時間軸が並行して書かれていることなどから聖書の中で最も難解な予言書と言われています。
ー大預言書ー
イザヤ、エレミヤ、エゼキエル、ダニエル
ー小預言書ー
ホセア、ヨエル、アモス、オバデヤ、ヨナ、ミカ、ナホム、
ハバクク、ゼパニヤ、ハガイ、ゼカリヤ、マラキ
エゼキエル(Ezekiel)
名前の意味
エルは神という意味で、エゼキエルは『神は強めてくださる(励ましてくれる、励まされた)』という意味になります。
創世記2章の、天地う創造際の記述で、ついで神エロヒムは・・・と述べられていて、このエロヒムはエロアの複数形です。
人物像
ブジの子で祭司でした(?)が、30歳頃から50歳頃まで預言者として活動しています。
ブジはブズ族でアブラハムの遠い親戚に当たり、その子供がエゼキエルという事になります。
ブズはアブラハムの兄弟ナホルとミルカの間に生まれた2番目の息子です。しかし、旧約聖書の中の記述が少なく不明な部分が多い人物です。

エゼキエルが20歳になる頃、捕囚民としてバビロンへ連行されてしまいます。
バビロニアは征服した諸国の指導的な地位にある人々を捕囚として移住させていたこと、
エホヤキン王とともに捕囚されていることからエゼキエルは捕囚当時、若者であったとはいえ祭司職のエリート階級に属していたものと思われます。
ついた街はテル・アビブというところで捕囚から5年後の、紀元前592年から預言者としての人生が始まる事になります。
バビロン捕囚は3回行われており、
テル・アビブは現在イスラエルにあるテルアビブとはとは違います。
エゼキエル書概要
エゼキエル書は聖書の26番目の書で筆者はエゼキエル、書かれた場所はバビロンです。
当時のバビロンの王ネブカドネザル2世は流刑にされたイスラエル人たちに自分の家を持つことや、一生懸命に仕事をすることで生活が豊かになり、繁栄することを許していました。
一見すると良さげな環境のように思えるかもしれませんが、それはバビロンの多神教、異教の神々と物質主義という名の偶像崇拝に晒されることを意味しました。
ネブカドネザルがイスラエル人に自由を許したのは、人道的な理由ではなく、ネブカドネザルが理想とする都市を建設するためには多くの人出が必要という考えからだったようです。
エゼキエル書はそういった偶像崇拝や異教徒との姦淫に対する警告と神からの審判が下ることを告げ同時に、神に従う人々への希望を予言しています。
ギルガメッシュ叙事詩の中では、人の生きる意味は『昼も夜も楽しんで、火ごとに饗宴を開き、子供を可愛がり胸に抱かれた妻を喜ばせることだ』と書かれています。エゼキエルが受けた神からの警告はそういった考え方に染まり、聖書の神に仕えるという目的から外れてしまうことへの警告ということもできます。

バビロンの繁栄・ネブカドネザル
バビロンは全市が二重の城壁で囲まれ、豪華な城門(一説では100の門と200の塔が立っていたと言われている)を設けて市内を縦断する幹線道路が作られていました。また、貿易面でも秀でており多くの富を得ている都市でした。

バビロン城壁に作られた豪華な門の一つ『イシュタル門』はベルリンのペルガモン博物館において復元されています。
バビロンの女神はイシュタル(イナンナ)です。

エゼキエル書概要
バビロンで神の幻を見る
激しい風と、明るい光に包まれた巨大な雲の中で煌めく火があって、日の中には琥珀金のようなものが見えたと書かれています。
モーセが神と出会った時(見た時)も光る雲の描写がされています。

火の中には、4つの人のような生き物がいて、それぞれ4つの顔、4つの翼を持っています。

それぞれに4つの顔と4つの翼があった
足は真っすぐで足の裏は子牛の足の裏のようであり 磨き上げた銅のように輝いていた
四方の翼の下には人間の手があった
4つの生き物それぞれに顔と翼があった
翼は互いに触れ合っていた
4つの生き物は進む時に向きを変えずそれぞれ真っすぐに前進する
4つの生き物の顔についてはそれぞれに人間の顔があり右側にはライオンの顔
左側には雄牛の顔、後ろにはワシの顔があった
翼は上に向かって広げられていた
翼のうち2つは互いに触れ合い2つは体を覆っていた
4つの顔の4体の生物のそばにはそれぞれ一つの車輪があった
車輪は巨大で二十構造で外側の車輪はたくさんの目で覆われている
4つ位の生物の上部に巨大な台座がある
台座はサファイヤのようで人のような形の方が座っている
その人は火のようであり、琥珀金のようであり、虹のようである
この記述から、人獣混合の顔を持つ4つの生き物が神(?)の王座を運んでい流幻を見たエゼキエルですが、その神から巻物を与えられ、その巻物を食べるように告げられます。
エゼキエルはその巻物を食べると蜜のように甘かったと書かれています。
4つの翼と4つの顔
神のような方が載っていた台座を支えている4つの生物は一般的にはケルブであると考えられています。
それは4つの顔を持っています。ライオン、雄牛、ワシ、人です。

ライオンの特徴を述べている箇所
・サムエル2 17:10 ライオンのように勇敢
・箴言28:1 正しい人はライオンのように動じることがない
雄牛の特徴を述べている箇所
・箴言14:4 豊かな収穫をもたらすのは牛の力
鷲の特徴を述べている箇所
・ヨブ39:27−29 ワシが飛び立ち高い所に巣を作るのはあなたの命令によるのか。
ワシは崖の上で夜を過ごし険しい岩場の上の安心できる所にすむ。そこから食物を探す。
目ではるか遠くまで見通す。
人の特徴を述べている箇所
・創世記1:27 人を自分に似たもの、神に似たものとして創造された
・ヨハネ第一4:8 神は愛です
これらを考慮して、4つの生き物は『神が公正で、力があり、知恵があり、愛ゆえである』と考えることができるようです。
また、エゼキエルは4という数字を多用しています。
全てを包含するという意味合いがあります。そのことを考慮すると、4体は文字通りの4つというよりは神の全体像を象徴的に表していると考えることもできるでしょう。

この不思議な乗り物?兵車?の描写が色々な憶測を呼び、様々な芸術品としても表現されてきました。宗教的な観点ではそれぞれが意味のある象徴として捉えられます。
古代宇宙人説などでは、文字通りの乗り物に乗った神と呼ばれている者を見たのだと、捉えるようです。
エゼキエルはイスラエル人たちが神にそむき偶像崇拝を行い、罪を犯しているのでイスラエル人たちの故郷ユダ王国の首都エルサレムを滅ぼすことを予言しました。
しかし、イスラエルの人々はすぐに故郷に帰れると楽観的でエルサレムの崩壊を信じませんでした。
そこで、エゼキエルは予言内容を色々な方法で民衆に伝えます。しかし、イスラエル人たちは信じません。
やがて、紀元前587年バビロニアはエルサレムを占領し翌年には破壊します。
その事によって、残っていたイスラエル人全て捕囚されユダ王国が滅亡します。
